目 次
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フォントの著作権には、2つの側面がある
フォントファイルは、著作物です。
(⇒フォントファイルとは?)
ただし、フォントファイルには、著作物として以下の2つの側面があることに留意します。
- 書体としての見た目(デザイン)に関する著作権
- データプログラム、電子データとしての著作権
以下、この2つの項目について1つずつ説明します。
『書体』には、基本的に著作権が認められない
フォントの見た目やデザイン(書体)に関しては、過去の判例などにおいても、基本的に著作権は認められないものとされています。
(『八木昭興対桑山三郎・柏書房事件』(東京地裁昭和54年3月判決、東京高裁昭和58年4月判決、最高裁昭和60年4月和解)、『モリサワ対エヌアイシー事件』(大阪地裁平成元年3月8日判決、大阪高裁平成2年3月和解)、他)
- 一般的で無個性な書体について特定の者に著作権を認めると、その書体を使用した出版や、その書体と類似した書体、改良した書体の作成などの際に逐一著作権者の許諾が必要になり、言語を主とする様々な文化活動そのものを阻害しかねず、文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反する。
- 我が国では著作権の成立に審査や登録が不要で、また対外的な表示も義務でないため、無数に存在する似たような書体全てに著作権が認められることになると、権利関係が複雑化し混乱を来す。
(『ゴナ書体事件』最高裁第一小法廷 平成12年9月7日判決等より)
ただし、これには例外もあります。
特に特徴的で奇抜な書体、創作性、美術性を備えた書体や、純粋に美術として成立する毛筆書体については、デザインそのものが著作権によって保護されます。
『データ・プログラム』としては、著作権が認められる
一方、デジタルデータ、プログラムとしての著作権については、過去の判例も概ね認めています。
(平成15年(ワ)第2552号 著作権侵害に基づく差止等請求事件、他)
そのため、不正コピーや作者の許諾を得ない配布などは、作者(著作権者)の経済的利益を害することに繋がるため、民法第709条の『不法行為』によって、損害賠償を請求される可能性があります。
ここまでのまとめ
- デザイン(見た目)に著作権は無い。
- デジタルデータ/プログラムとしては、著作権が認められる。
そのため
- データを使って印刷、出力したものなどには、フォントの作者の著作権は及ばない。
- フォントデータの不正コピーや無断配布等は、NG。
- デザイン(見た目)に著作権が認められる。
- デジタルデータ/プログラムとしても、著作権が認められる。
そのため
- データを使って印刷、出力したものなどにも、著作権が及ぶ可能性がある。
- フォントデータの不正コピーや無断配布等は、NG。
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フォントの使用は、作者との『契約』である
基本は以上ですが、実際にフォントファイルを買い、あるいはフォントメーカーからライセンスを得て使用することになった場合、フォントデータの著作権者との間に民法上の『契約』が結ばれることに注意しましょう。
民法には契約自由の原則があり、公序良俗や法令等に反しない限り、互いに承諾し合えばどのような契約も結べることになっています。
フォントを利用するときには、作者がフォントファイルと共に提示した利用規約を使用者が読み、承諾することによって、契約が成立します。
すなわち、もし判例などで示されている原則にそわない利用規約を前提に契約が成立すれば、一般に認知されている原則が通用しない事態も起こりうるということです。
以下に、例を挙げてみます。
例1)『フォントを使用して印刷物を制作した場合、その印刷物を商用利用してはならない』
と書いてあれば、たとえ明朝体やゴシック体などの一般的で無個性な書体であったとしても、それを使用して制作した成果物にフォントの作者の著作権が及ぶことになります。
本来書体に対しては著作権が認められないのですが、使用者がこの利用規約に承諾して契約していれば、著作権が生じるということです。
例2)『フォントは印刷物やウェブ上などでの出力だけでなく、商用、非商用を問わず自由に複製、改変、配布する目的に使用して構わない。著作権は、これを放棄する』
と書いてあったとすれば、著作権者には全く著作権が無いことになり、美術性創作性の有無等にかかわらず、データとしても自由にコピー・商用配布等が可能ということになります。この場合、不法行為による損害賠償が生ずる余地は、ほぼ無くなります。
総まとめ、結局どうすれば良いのか?
一般原則としては、
- 書体には、基本的に著作権はない。フォントを利用して文書等を作成した場合、印刷物などの成果物にはフォントの著作権は及ばない。ただし、創作性美術性が認められるものは除く。
- データ・プログラムとしては著作物であるので、不正コピーや無断商用配布など、作者に経済的損失をもたらす行為は許されない。
…ということなのですが、フォントを使うという行為はフォントの作者と契約を交わすことが前提となるので、
…というのが、結局のところ最終的な結論になります。
作者の定めた利用規約を読んだ上で、もし支障があると感じたり、気に入らなければ、使用してはいけません。
使用すれば、利用規約に承諾したものとみなされるからです。
そして万が一著作権者によって利用に関する規約が一切示されていないような場合には、この章の一番上に書いた一般原則(判例等によって示されたもの)が適用されることになります。
ちなみに、先日の記事に書いたモリサワフォントについては、きちんと購入し、ユーザー登録して使用しているぶんには印刷や出力、ロゴへの改変などは自由、それらの成果物を商用利用することも、ほぼ全面的に許可されています。(ただし、使用して作ったロゴマークの商標登録や意匠登録は不可。)
そして、ライセンス外の不正使用を目的としたフォントファイルの複製や改変、配布などは、禁じられています。
判例でも示されている原則と、ほぼ同じということですね。
使用に際して継続的にお金を払い続けなければいけないか、一回お金を払ってしまえばあとはずっと使い続けられるか、作者のサイトなどから無料で手に入れても良いか、などといった辺りはそれぞれのケースによって変わってきますが、フォントの利用の仕方そのものに関するルールは、だいたいこのような形になっているものが多いです。
いずれにしても、たとえ商用利用可能なフリーフォントであっても著作権を全て放棄しているというケースはまず無いので、利用に際してはフォントそのものを商品として販売してはならないなど、何かしらの制約は必ずあります。
繰り返しになりますが、フォントを使う際は、その前に必ず利用規約をきちんと確認しましょう!